悪辣
ノクターンの柔らかな旋律が彼女の頬を撫でる。第三病棟の206、ナイフのように鋭い斜陽が差していた。ベッドの上で血を流す彼女の、その華奢な喉から発せられた不可視の振動の中に、僕は確かにその言葉を読み取った。それは呪いで、僕はその言葉をまだ飲み込むことが出来ない。そうして僕はとうとう窒息してしまった。
「生きたい」
肉の腐臭が鼻腔を刺激する。時間が静止したような感覚に違和感を覚え首を擡げる。
ふと窓の外に目を向ける。斜陽だった。ナイフのような斜陽。セミが狂ったように叫び続けていた。そこで僕は初めてああ、夏が来たのだと思った。
悪辣にむせかえり、ナイフはますます鋭さを増した。二人は一人へ、慈しみは焦燥へ。ノクターンの旋律はもう聞こえなくなっていた。
「生きたい」
肉の腐臭が鼻腔を刺激する。時間が静止したような感覚に違和感を覚え首を擡げる。
ふと窓の外に目を向ける。斜陽だった。ナイフのような斜陽。セミが狂ったように叫び続けていた。そこで僕は初めてああ、夏が来たのだと思った。
悪辣にむせかえり、ナイフはますます鋭さを増した。二人は一人へ、慈しみは焦燥へ。ノクターンの旋律はもう聞こえなくなっていた。