ポエム
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『少年と草』

草刈り機が唸っている

「残ったやつをやってくれ」

少年は頷き、鎌を握った

錆一つない刃である


機械が左右に揺れるたび

草は金切り声をあげる

まるで悲鳴だ

繊維をあらわにして

さわやかな匂いを放つ


きぃぃーーーーん

ねぇお父さん

今日ね

僕ね

学校で褒められたんだ

テストで100点だったから。

ユウくんは怒られてたよ

落書きだらけだったし

飴食べてたし

あとなんでスカートめくるんだろう

名札なんてさ

いつもボロボロになるまで曲げてる


きぃぃーーーーん

でもねお父さん

ユウくんは大事なことを知ってる

今みたいに学校でね

雑草取りしててね

「どれが雑草ですか」

って聞いたんだ

どれが雑草かなんて

ほんとは先生

わからなかったみたい

ここを綺麗にして、

としかいわなかった

調べたらね

「おおばこ」と「どくだみ」だった


きぃぃーーーーん

お父さん

先生にも知らないことがあるって

僕とユウくんは知ってたから

だから学校の壁に落書きしたんだ

図工のときの絵の具より

草の根っこの土のほうが綺麗だった

学校はさ

僕たちのものだよ

僕の机にさ

「■■小学校」ってシールがあるけどさ

机は僕のものだよ

僕の胸にさ

名札があるけどさ

僕は僕のものだよ


きぃぃーーーーん

もう一つ僕たちは知ってるよ

先生は先生にとって大事なことを

僕たちに言ってくれないんだ

でもそれは意地悪なんかじゃなくて

言えないようにされてるんだ

大事なことを奪われてるんだ

だからね

先生ってかわいそうだ

運動会のとき

赤組のために走って転んだときの

先生の笑った顔が

僕は好きだよ

落書きしたけど

怒って困ってあきれた顔した先生が

僕は好きだよ


きぃぃーーーーん

ねぇお父さん

聞こえてる?

ふらふらしてるよ

機械に操られてるみたいだ

疲れたんじゃない

僕、疲れたよ

鎌が重いよ

「おおばこ」と「どくだみ」と

「ねこじゃらし」も全部

ちゃんと切ったよ

僕も鎌に操られてるみたいだ

操られて切り続けてる

ねぇ聞こえてる?

なんだか怖いよ

きぃぃーーーーん


西の地平に残る

赤と紫のグラデーションを

大きな夜が覆っていく

夕闇だ

黒い黒い草の汁

鎌に付着して光っている


しまいには

みんな同じ高さの草

しんとして静かだった


その日、少年は布団にもぐって

胎児のように眠った

指の付け根から草の匂いがした

水ぶくれができて熱っぽく

ぶよぶよして痛かった


眠る直前までずっと

草を切ったときの感触が

きぃぃーー

ぼくがなにをしたっていうんだよう

なにもしてないだろう

そこに生まれ落ちて

そこで育って

そのままでいただけじゃないか

いたいよう

いたいよう

ーーん

残っていた
18/06/03 01:06更新 / スマイル般若



談話室



■作者メッセージ
最後までお読みいただきありがとうございます。
抑圧をテーマにしております。まだまだ拙いですが。
よろしければコメント等お願いいたします。

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