『イビツな木』
日本で戦争が終わったあと
焼け野原があったから
絵描きは影絵を始めた
今もそれを続けていて
(小人でいっぱいのメリーゴーランド)
個展に訪れた大学生の僕は
綺麗だなあと思った
平和の素晴らしさや
戦争の悲惨さをごく自然に
静かに感じられるように
と絵描きは言っていて
立派だなあと思った
あるときテレビで
中東の父母のドキュメンタリーをみた
父は大きな戦場で鉄砲を撃ち
母は小さな畑で隠れて泣いていた
父母は息子と財産を奪われたあと
子どもが産まれたから
チーマンと名付けた
今もチーマンと呼んでいて
(クルド語で「何もかも失った」)
それを見ていて僕は
悲しいなあと思った
鉄砲を撃って稼いだお金と
親戚を訊ねて集めたお金で
父母は息子を取り返した
息子は怒るとナイフを持ち出すようになっていた
それを見ていて僕は
悲しいなあとまた思った
しばらくして僕は大学の仲間たちと
平和をテーマにした講演会を企画し
アフリカで大虐殺を経験した女性を呼んだ
彼女は日本国籍を取得するとき
永遠に祖国を忘れないと思いを込めて名前を変えたという
祖国で家族を失ったあと
血縁のない子どもたちがいたから
彼女は教育支援を始めた
今もそれを続けていて
(笑顔がいっぱいの学園)
講演を聞いた僕は
崇高だなあと思った
現代は
ダイナマイトでも
原爆でもなく
子どもが爆ぜる時代
無知と向き合ったあと
点のような感情があったから
僕は言葉を使い始めた
今もそれを続けていて
(それがこの詩)
こんなことをしても
無意味だなあと思った
綺麗にも
立派にも
崇高にも
なれない
中東の母の涙を
僕は流すことができない
思考がまるで枝のように
僕の内側に何本も伸びていって
怒哀を咲かせては
吹き溜まった
虫に巣食われてしまいそうだった
変な枝から
変な喜怒哀楽を咲かせては
吹き溜まりに虫がわいて
腐っていく人がいる
あっちにも
こっちにも
――青空があると信じて登り続ける
――この高い灰色の山
――青空を見た人は未だにいない
絵描きと父母と講演した彼女
が見るのは
綺麗でも立派でも崇高でもない
悲しい世の中
まっすぐに見つめれば
見つめるほどに
汚い
この詩が終わったあと
無意味がのこるから
僕はまた詩を書く
これからもそれを続けていって
(ここからの詩)
虫がわいたとしても
負けてはやれない
焼け野原があったから
絵描きは影絵を始めた
今もそれを続けていて
(小人でいっぱいのメリーゴーランド)
個展に訪れた大学生の僕は
綺麗だなあと思った
平和の素晴らしさや
戦争の悲惨さをごく自然に
静かに感じられるように
と絵描きは言っていて
立派だなあと思った
あるときテレビで
中東の父母のドキュメンタリーをみた
父は大きな戦場で鉄砲を撃ち
母は小さな畑で隠れて泣いていた
父母は息子と財産を奪われたあと
子どもが産まれたから
チーマンと名付けた
今もチーマンと呼んでいて
(クルド語で「何もかも失った」)
それを見ていて僕は
悲しいなあと思った
鉄砲を撃って稼いだお金と
親戚を訊ねて集めたお金で
父母は息子を取り返した
息子は怒るとナイフを持ち出すようになっていた
それを見ていて僕は
悲しいなあとまた思った
しばらくして僕は大学の仲間たちと
平和をテーマにした講演会を企画し
アフリカで大虐殺を経験した女性を呼んだ
彼女は日本国籍を取得するとき
永遠に祖国を忘れないと思いを込めて名前を変えたという
祖国で家族を失ったあと
血縁のない子どもたちがいたから
彼女は教育支援を始めた
今もそれを続けていて
(笑顔がいっぱいの学園)
講演を聞いた僕は
崇高だなあと思った
現代は
ダイナマイトでも
原爆でもなく
子どもが爆ぜる時代
無知と向き合ったあと
点のような感情があったから
僕は言葉を使い始めた
今もそれを続けていて
(それがこの詩)
こんなことをしても
無意味だなあと思った
綺麗にも
立派にも
崇高にも
なれない
中東の母の涙を
僕は流すことができない
思考がまるで枝のように
僕の内側に何本も伸びていって
怒哀を咲かせては
吹き溜まった
虫に巣食われてしまいそうだった
変な枝から
変な喜怒哀楽を咲かせては
吹き溜まりに虫がわいて
腐っていく人がいる
あっちにも
こっちにも
――青空があると信じて登り続ける
――この高い灰色の山
――青空を見た人は未だにいない
絵描きと父母と講演した彼女
が見るのは
綺麗でも立派でも崇高でもない
悲しい世の中
まっすぐに見つめれば
見つめるほどに
汚い
この詩が終わったあと
無意味がのこるから
僕はまた詩を書く
これからもそれを続けていって
(ここからの詩)
虫がわいたとしても
負けてはやれない