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或る少女

あの頃の少女は、
いったい何処へ行ってしまったのだろうか

窓の向こう
現在(いま)を生きる少女達の声が
陽の光を綺羅々々と纏いながら
薄暗い部屋の中にも
鬱屈とした此の脳みそにさえも
差し込んでくる

其の声が私の
記憶の奥の奥まで踏み込んできて
乱暴に扉を暴き
嫌でも思い出させてくるのだ…

嘗て、一人の少女が居た…
輝く陽射しの下
陽の光をにも勝る笑顔を振り撒き
些細な喜びすら大きく膨らませ
共に居る少女達と笑い合って居た

少女には何の心配事も無く
何も恐れるものも無く
胸いっぱいの幸せを抱きながら
自由な夢の世界へと
翼を羽撃かせて居た

然し…
少女が大きくなるに連れ
目の前の現実も大きく膨れ
彼女を呑み、縛り上げていった

現実は惨酷で惨虐で在った
圧倒的な力で
慈悲の欠片も無い言葉で
心無き嘲笑でもって
少女を殴り、嬲り、刺し、蹴り飛ばし…
有りと凡百暴力で蹂躙していった

少女はあまりの苦痛に泣き叫んだ
少女は無垢で在り、無知で在った
故に現実に対抗する力も知恵も
持ち合わせていないのであった

無慈悲な世界の中
嘗て笑顔を湛へていた顔を歪め
些細な喜びすら失い
絶望のドン底で少女はもがき苦しんだ

少女の裡は不安で溢れ返り
怯え切った脳は縮こまった
恐ろしい現実を前に
一欠片の幸せを探す力も
夢の世界へ羽撃く翼も
何時の間にか喪失(なく)していた

…そうして幾何かの時が過ぎ
何時の間にか
少女自身も居なくなっていた…

嗚呼!!少女は殺されたのだ!!
現実という此の世界に!!
心無きニンゲンという殺人鬼達に!!

見よ!!此れが彼の少女である!!
最早人の形を留めていない
見るも無惨に潰された亡骸よ!!

然し…彼女は自分の死に
未だ気がついていないのだ
嗚呼、何と残酷なことよ…

永き苦しみの時に苛まれながら
「如何して生きて往かねばらぬのか」と
泣きながら世界を呪っている
哀しき憐れな亡霊よ…

何れ程希望を求めようと
何れ程幸せを求めようと
全てが彼女の手を擦り抜けてゆく
亡霊の手では何も掴めない

そうして彼女は繰り返す
掴めない希望に、幸せに
終わらない絶望を…現在(いま)も

あの頃の少女は、
もう此の世には居ないのだ
あの頃の少女は…

其の証明が、私自身なのだ

19/05/18 23:56更新 / 夕顔



談話室



■作者メッセージ
遠い昔の…けれども確かに自分のものであるはずの記憶が、まるで別の人のもののように…あの頃の自分が赤の他人のように、感じることはありませんか?

(2019.05.18 追記)
一部、漢字が文字化けしていたので、平仮名に直しました。

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