ポエム
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カエルの鳴き声
子供の頃

梅雨の季節になると近所にあった水田地帯の方から

決まって夜間に大勢のカエルたちの鳴き声が聞こえていた

街灯のような光源のない暗い暗い漆黒の闇に覆われた水田から響き渡る

近所迷惑など一切顧みないカエルたちの絶え間ない大合唱

それは梅雨の時期になると必ず耳にするひとつの風物詩であった

でも今は……

水田は埋め立てられて真新しい住宅地にその姿を変え

怖かった水田の漆黒の闇は煌々と光を放つ街灯によってかき消され

祭りの出囃子のように夜の静寂を突き破って盛大に鳴いていたカエルたちの鳴き声もいまはなく
代わりに現れたのは住宅地に漂う物静かな沈黙たち

季節は巡って来年もまた梅雨はやってくる

でも子供時代に聞いていたあのうるさい鳴き声を叫んでいたカエルたちが居た梅雨はもう二度と戻ってくることはないのだろう

戻らぬあの頃の梅雨の季節を追想し

ふと心の中に寂しさがひょっこりと顔を出す

そんな蒸し暑い梅雨の夜のひとときをいま過ごしている


25/06/17 19:21更新 / まだら雲



談話室

■作者メッセージ
記憶の中にある風景がもう見れないというのはとても寂しいことです

読んでいただきありがとうございました

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