ポエム
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兎の涙
ムシャ ムシャ ムシャ
兎はいつも決まった時間に
決まった場所で
与えられた草を食べる 
まいにち まいにち

「おいしい?」
ある日聞いてみた
「・・・」
ムシャ ムシャ ムシャ

まいにち まいにち
飽きもしないで
ムシャ ムシャ ムシャ

もう何年も何年も一緒だから忘れてしまっていたけど
出会った頃、兎は黒い目をしていた

だんだん だんだん 
兎の目は赤くなっていった
だんだん だんだん
いつしか 目は真っ赤っか

そしてとうとう泣かなくなった

「お散歩に連れて行かないから悲しいの?」
「・・・」
ムシャ ムシャ ムシャ

「ひとりぼっちで寂しいの?」
「・・・」
ムシャ ムシャ ムシャ

(そんなことくらいで泣かない)
兎は心の中で叫んだ 

もう何年も何年も
ムシャ ムシャ ムシャ
ムシャ ムシャ ムシャ

だんだん だんだん 
ふわふわの真っ白い毛はボサボサに

だんだん だんだん 
だんだん だんだん
ふっくら丸い身体は痩せ細って小さくなっていった

もう草は食べられない
水も もう要らない・・・

最後に聴かせて欲しい
「ねぇ 僕と暮らして幸せだった?」
「・・・」
「目が赤くなったのはどうして?」
「・・・・・・・・」
「悲しみを・・・精一杯 沈めたから・・・」
最後の力を振り絞って兎は応えた

ボサボサになった灰色の毛に
真っ赤な涙が一筋
つぅー
長く深い悲しみは一粒の涙となって消え去った
穏やかな春の光が兎を優しく包んでくれた


どうして どうして どうして
もっと早くに・・・

白髪混じりのかつての少年は
生まれて初めて自分の罪の深さに項垂れた
20/04/29 13:14更新 / 蓮好



談話室



■作者メッセージ
本当の悲しみは誰にも言えずに、心の奥底にため込んでいくもの。
深い悲しみを封じ込めて生きる女性の人生を表現しました。

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