紅 緋い 蒼 織り
養女・六艶
彼女の短所はやたら好戦的に
自分が『敵』認定した相手を
あおることだ なぜなのか内面に
いつも危機意識が疼いていて
それを自身でも持て余しどうにも
できていない 情緒不安定で稚拙な
感情の持主 今の保護者として俺は
酷どくもどかしい
心理科医の俺はひょんなことから
彼女を知り そして結局ほおって
おけなくなってしまった これが
俺の方のどうしようもない欠点
いつも拘った患者の事情に深入りし
人生の貴重な時間を提供してしまう
だが何が彼女をあんな煽る性格に
したのか突き止めなければ居ても
立っても居られないらしい
全く俺ってやつもまた面倒な
冷静に分析してみれば本来煽おりっ
てのは無意識ではありえない代物
それはいつでもどこか打算交じり
で計画的策略的策士的 だが六艶の
其れは本人の打策の所産ではなく
どこまでも無意識下で反応的なもの
彼女の行動パターンといえば
煽ったらその返しで身をひる反す
バク転宙返りでもしそうな瞬発さで
短絡にもほどがある しかもひねった
あとは情緒が反転してべっ せかいの
片鱗をみせちやう 脱力し モノすら
話す気力もなくイジケてしまう
いつだって自分を取り囲む世界に
対して敵意をかくさず躁鬱の差が
極端な彼女は 俺と出会う前に何が
あってそうなったか解らなかったが
養父として一緒に暮らしているうち
その性格の心傷形成には彼女の実の
兄が関係していることがわかってきた
飛行機事故で2人の両親が死んでから
は 六艶は十五年上の兄・七撫に育て
られたといってよい そして七撫は
心理学研究者の道に進み 事もあろうか
妹を児童心理形成の臨床例モルモット
としたのだ 六艶は兄の望むまま策を
盛られた環境で操作され 20通り以上
の人格へと短期間に改変され そして
『敵』を煽り弄る人格の臨床中に七撫は
逮捕され収監された 七撫の研究室の
室長だった俺は憐れな六艶を拾い 居る
はずのない仮想『敵』に怯えることの
ない情緒の穏やかな娘にもどすべく
愛情を注いだ治療を進めているが
どうも最近彼女は俺が研究のために
自分を飼育しているという疑念と
妄想に憑かれて俺を色仕掛で煽って
くるようになった こまったものだ
おいよせまたそんな格好で
いますぐ服を着ろ! ムツっ