嗚咽姫
こんな私の商売は死を美装する泣娘
ずっと昔孤児だった記憶を持つ私は
親しい人がなくなった通夜の舎えの
玄関先を叩いては死んだひとのため
に一晩中本気で泣いてあげる
そうして小銭を頂いては
人知れず闇に碎ける
『わっ 嗚咽姫きたぞお』
『不吉だ、虐じめちゃえ』
村のこどもたちはいつも私が商売で
歩くと尖った石を投げてくる
時にはそれが額に当たって血が噴き
出した 一度左目を縮ぶされたことす
らある 翌日には元の木阿弥に復したけど
そう私の特異体質は泣いて泣いて泣
いて泣いて泣いて からだとココロの
なかの毒という毒を絞り出すと
細胞の再生力が異様に速まるのだ
『妖怪!』『気味が悪い。近づいて
こないで』 大人たちも私を謗じる
私はその怨念やら怨嗟やらをすべて
引き受けることで老化の停滞や未来
予見などのチカラも獲ているのだ
お陰で人らしい苦悩や感情は手放し
てしまいすっかり悠さしい
ところがあの人 庄屋のムスコさま
こんな私に過剰な情さけをかけてく
れた珍しいお方
あのひと『令息さん』に話しかけら
れ感情を通わすに連れ 私はまた変わ
りはじめた 何かが宿だめに作用した
停まっていた老化がうごきだし再生
力も落ちて死を至近に意識するよう
になった でもね
たとえ過ごす時間に限りが見える
ようになったとしても『令息さん』
と添い遂げたい……姫などではなく
平凡な女としての願いがわたしの
腐さったこころ凍りついた時間を融
解しはじめた引き爪のようだった
そんな薔薇蕀の街道をどうしてあの
人とふたり進みたいと想うのだろう
行く手には悲劇と残酷しか待ち構え
ていないと予見っているのにな