翅瑠璃
わあっ お父さん、お母さん
あのこほしい すぐほしい!
かつて 美しい蝶々のはねの瑠璃に
美いられるとそこからぬけだせなっ
て帰ってこれなくなるという
ジンクスが密そやかに囁かれていた
幼いユリムリもコロニーのセントラ
ル公園でその美しい『妖精さん』を
いや昆虫さんを見かけてから心が
囚らわれその虜となってしまった
おかげでその時点で彼女の人生の
進路は固まってしまいほかの沢山の
選択肢がみんな一瞬で霞散した
ユリムリは宇宙連邦大学の自然擁護
学科に進み 主席で卒業
特殊監視官となって今は連邦元法保
護条約によって一般連邦民の入境が
きびしく規制されている起源母星
『地球』の環境上に特別に降りれる
職能と資格を手に入れた
彼女は在学中に自分がかつて郷里の
マケマケコロニーの公園で蜜つけた
昆虫君が精密に製作され再現された
3Dロボット体だったと初めて知った
だが永がい時代の間厳重に監理され
デザイナードされた地表の何処かに
は復刻養殖された本物のパピイョン
らが自由に舞って暮らしているとい
うことも知って 彼女の進む方向は
自動的に定まった
☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆
「ほらっマイケル!何サボってるの
!さっさとあのこたちとアクセスし
にいくわよ」
「待ってくださいよ、教授。食事位
ちゃんと摂りましょうよ!」
専門の採集学者となって名前も少し
は知られるようになったユリムリ・
ドリンクハート女史 今日はアマゾン
明日はボルネオと人類が足を踏み入
れなくなって四百年過ぎた原生林の
樹海を今日も助手のマイケル・ペイ
デンの尻叩きながら 捕獲ドローンを
抱いて走り回るかがやかしい日々を
過ごしている
その瞳には少女のころに映し出され
た翅の瑠璃翠がいまだ輝きを反射し
煌らめきつづけているようだった