サハラ腸特急
カイロ(アルカヒラフ)からヌアディ
ブーまで一目散に沙漠を抜けてゆく
特撰旅客鐵道がオペックとイーユー
の協働で完成したので早速載った
すると始発駅でぐう然きみを見掛け
て声をかけるときみは嬉しそうに振
り返り駈けてきて僕の両手を包んだ
お互いの長く会えなかったあいだの
消息を一頻きり語り合ったあと
で、きみはそこへなにしにいくの?
と車両座席の手擦りに肘をついて
悪戯上目使いできみに訊いてみた
きみはぼくがうっかりみせた白眼に
微すかに怯びえたようだった
きみはおもいなおしたように騙った
沙原のはてをひとめみて旅を感じて
その地で意気を引取りにいくのだと
途端ぼくはてのひら翻して気色ばみ
そんな深闇へ堕ちるだけの旅など
いますぐ辞めてしまえと おもわず
憤おりのままきみをなじり跳ばした
するときみはどう感じたのか
哀なしげなかおをし途中駅の
タマンラセットのホームで下車し
それきり連絡がとれなくなった……
ぼくは終着手前のヌアクショットで
降りて買付けのビジネスを無事に
終えたが帰りの列車のなか
アルジェリアの砂丘の山腹で
行き倒れたきみが見つかったとの
寸報を訊き立ち尽くした……たどり
着く場所は結局仝じにしても なぜ
達っした大西洋の波打ちに肢しを
浸し満悦そうにするきみの始終を
看取ってあげる勇気がなかったん
だろうと出されたケバブの車内食
のトレエにかおを埋ずめ声をおし
堪ろし逸心不乱に咽せび哭いた
ほぼからっぽの胃とか腸が呻めき
疼づき捻転し引裂くような貫痛が
きみへの鎮魂の想いに華を沿えて
増幅(アンプリファイヤー)した……
新造のサハラ新幹線はそうしたぼ
くの懊悩と悶絶と呻吟を格納えて
ひたすら蒼の底めざし驟しる犇しる
火照りのこる夜の幃下りたさばく
の稜線たちもそんなぼくらの抱え
る有象無象な宿題に関心を懐たず
昼夜反転儀のルーティンワークを
地球碎だける日まで唯だ繰り返し
平らかを貫徹するのみであった
さ原らのたびは砂つぶのかずほど
多い無念をまたひとつぶ殖やした
だけの虚空驟雨のたびだった