トラゴーディア (τραγωδια =ludicra mimo)
エゼルチェインは嵐が力づくにつれ
その怯えが益々増すようだった
怖いよう怖いよう怖いよう!
無理もない
物心ついてからはじめての本格的な
嵐到来である
私は彼女にそんなに怖がらなくても
嵐はすぐに飛び去るものだといって
慰めるが彼女の慄動は止まらない
やがてそれまで閑の射していた
外のようすは急変しまっ枕らとなり
雲底から翼のはえた叫囂魔神まで
降臨してきた
叫囂魔神はエゼルチェインを的つけ
ると一挙におそいかかってきた
私は恐しさも忘れ彼女の前に立塞り
奪われまいと両手を広げて抗ったが
奮起虚しく彼女は天空の彼方へ連れ
去られ剃れからほどなくして
あっという間に昊は晴れ上がり
恒ねなる平穏んを取り戻した
私は己れの無力に絶望しへなへなと
その場に根を生やし 嗚咽し慟哭した
エゼルチェインがその後いかなる
ことに相なったか正確には知らない
自分が息を引き取るまでに諸国を
旅るきまわって捜らべたところ
はるか遠い東方の国で君臨するあの
叫囂魔神の背後にはいつも 恐らく
長じた彼女に違いない魔神の花嫁が
龍車にのって控えているのだという
嘘とも作り事ともわからない伝聞を
耳にしたのみである
が、むろん目蓋をとじたあとは総べ
てはどうでもよい些事と化ったこと
は謂うまでもない
https://youtu.be/5qzM_-Gwk1w