壁裏の新たなロビー
夏野は六つになる長女の吉舎野が
さいきん奇妙な言動を口にすること
が多くなったのに悩んでいた
吉舎野は自分の行手に壁が塞がると
視認しじぶんで精査したあと決って
壁を指差し不可解な警告を発する
『その壁の後ろに闔びらがあるよ 』
気に止めた大人たちが寄って集って
裏側がある場合には実際に覗込んで
調べるのだがそこには何か在るよう
には一向に視えない
しかし霊能力者や占術師によれば
そこには異界への坑路となりうる
規述空間のホコロビがあるという
困ったことに 吉舎野にはたびたび
まったく何もないようにみえる街中
の通常空間を通行している際にも
唐突に可動式闔らが開きそこから
変色したうでが這い出してきて
彼女のちぃさなからだを引き摺り
こもうとすることがあった
それでそのうち永田町から
内閣官房直属の超災害対策特殊
部隊が十二人派遣されてきて
国家の宝奇として強制法令的に
護衛される展開となった
そうした茶番とお付き合いして
いるうちにいつのまにか
夏野自身も異界からの邪悪なる
ものと十二分にたたかう異脳を
身につけてしまっていた
彼女は異界の臭いを察知した途端
任意の座標に奏念の種子を蒔き
芽を拓かせ花と枝の網盾を展げて
異界の存在の異力を擂って萎ませ
負の構造の連結を単位レベルまで
解体し邪ゃを滅っ するのである
それは専門家からは 母壁力 の
一種と説明を受けた
併し夏野はじぶんがこの異力を
行使すればするほどじしんが
創りだした壁の奏成分と同化して
いつの日か植物来精霊蔕そのもの
に変容してしまうのではないかと
感じはじめた 彼女はみどりの芽を
噴きはじめた己のコブシを見つめて
ぼんやりと想いそれから頚をふった
『それでも構まわないわ。わたしの
存在があの仔の養分となって その未
来を拘なげる肥しになれるのなら』