バットヒーワズ……
彼の名は大森
円らな瞳が本来彼の純朴と飾らない
人柄を物語っているはずなのだが
前に凸んがった独特の顔つきと
いつも笑っているような口許の形の
せいで結構人生で大損をしていた
『なんだてめえ。なにうすら笑って
やがんだよっ』
いややめてやってくれ 本人は至って
真剣でしかも相当小心なのだが よく
絡まれ因縁つけられフルボッコされ
て路肩に仰向にひっくり返っていた
それでも当人はほくそ笑んでいるよ
うにしかみえず無気味でシュールだ
しかも毎週生傷が絶えずスプラッタ
ついた渾名が蝙蝠男( BATMAN〜♪)
俺はそんなこいつがほおっておけず
よく道にしゃがんで口に駄菓子屋の
棒菓子を刺し入れ介抱してやってた
そしたら高校卒業式間近かの或る夜
とつとつと俺んちの玄関先に顕れて
『小太郎ちゃん、此みてくれよう。
なんか凄いもんはえてきた』
そうやって背中からはえた漆黒の
ウイングを自慢気にみせてくれた
そしてかおを紅潮させたまま
色気満点のウインクをしてそのまま
翔んでいってしまいそれいらい
当分姿をみかけなかった
その後なにかの拍子の雑誌で
彼そっくりな日本の三文俳優が
マーベルエンターテインメントに
入りシュールな特撮映画に上半身
いつもはだかで出演しまくり人気を
博している風な記事を目にしたが
それが大森かどうかはさだかでない
まあ それが真実と信じてみたくなり
あいつを虐めてたばかどもに対して
みょうに誇らしいキモチになるのは
いったい なぜなんだろうなあ?
まったくなぞだ