優しい巨大怪獣
首都熊幌のまちに巨大怪獣が出現し
対話をまかされた私は鳳小路時種
首都内閣官房布の執貫職である
怪獣は恐ろしくでかくてグロテスク
斜塔のようなアタマのどこにその
意思を携えた脳が格納されてるかも
わからない
しかもそこから続いていく胴部分は
五百メートル先で海岸沖の裂目から
そのカラダの一端が出てきている
という訳のわからなさ
一方でその動きはある種の知性を
備えているのかと思わせるような
近づく我々に配慮した抑制もあり
一縷の期待をかけて問いかけた
『私のいうことがわかりますか?
あなたと対話がしたい』
すると頭部から首・胴部にかけて
夥しく散らばった七百三十個の
眼球が一斉に私を向いたので
私はおもわずびびった
それらのメッセージを発してる
かのような瞬きのタイミングを
量子コンピューターシステムの
言語処理アプリが即座に処理した
『わかります。はじめまして
小さき知的単体さん』
意志疎通に成功しまちじゅうで
歓声や発破があがった( ヲイッ)
『私は鳳小路時種。あなたは
だれですか?』
『ぼくは地球の子です』
おおっ大きくでたな デカブツめ
『何のために他の外国の都市で
なくこの熊幌に現れたのですか』
『六億年の間あなたがたが核と
呼ぶところで地球を操舵していま
したが厭きて退屈になったので
その操舵技術をあなたがたと分担
したいと思い現れました』
いちいち噺のスケールが壮大過る
そう対話しているうちにある時
ふいに幼子が割って両者の間に
跳びだしそこでころんで泣出した
『おおっ』と怪獣は感嘆してみせ
どこかからか触手がのびてきて
前で転んだ幼子を助け起したので
おもわず自衛隊が発砲を構えた
私は慌ててそれを制する
『個体の発生摂理は神秘的ですね』
と彼は感動しながら七百三十個の
目が一斉に飛び出してきて心配げ
に幼子をいたわった
『お怪我はありませんか。さらに
ちいさき単体さん』
と本当に彼がそう言ったかどうか
実のところ怪しいが量子コンの
奴が幾分なりとも事を荒立てない
よう計算してコミュニケートを
サポートした結果の成行だった
らしい 粋な真似を 量子コンめ
こうして彼「地球の息子」と
我々の永きに航る友好が始まった
のちにこの年は西暦にかわり
その後七千年続く巨獣歴元年と
して地球のあらたな地質史に
刻まれることになる