サワディーカ姫
「サワディー カ! シンペイサーン」
店のとびらをあけると威勢のよい
キンキンごえにむかえられ
香辛料の っんとした匂いが鼻つく
最近よく足運ぶようになった近くの
タイ料理店『クワムファン(夢)』
そこではたらくウェイトレスの
ユアンチャラポーンはタイのナコン
パトムから日本にきたところで
コロナによる帰国規制にぶつかり
かえれなくなった
いまは西川口西口にあるその店に
住み込みで金をため故郷に送る
ニックネームは『プルウン(炎)』
彼女の悩みはこの国の友達から
肌がココナッツやナンプラー臭い
っていわれることらしい
そして店をよく使う高三の俺は
どうも彼女と恋に落ちたのだった
褐色の肌のテカりや彼女の書留める
ミステリアスなタイ文字と相まって
日がな彼女のことばかり頭を占める
「サワディッカちゃんご機嫌よう」
「わたし、サワディッカちがぅヨ。
じぶんの事、プルウン呼んでるヨ」
怪訝そうに黒い目玉に見つめられ
俺の動機は速まる
しかし訪れるたび呼びつづけてると
俺に引き摺られて店を訪れる他の
常連らもいつしか彼女を『サワディ
ッカ』『サワディッカ』と口揃えて
呼ぶようになってしまった
やがて俺は決めた
外語大にはいってインドシナ語を
専攻しようとね
コロナ禍あけたら彼女の故郷
ナコンパトムを訪ねたいんだ