乳紅原
しょほぢよは苺紋に紅をぬる
みぎ紋 ひだり紋と丁寧に彩筆を
輪象の血腺のあつまるところに
遅遅と這わせ被おっていく
今宵は彼女が初めて差し出される夜
深川辰巳の岡場所で私生児として
そだった杢太郎は姉同様の背毬が
懸命に馴れぬてつきでじぶんの
宝石らを温ぐい 研がきづつ
粧っているいじらしいさまを横で
痴呆のように長がめている
やがて未熟な梨のような裸の上から
朱けの枇杷柄の羽織を纏とう背毬
そのせつな杢太郎は香の匂いにふれ
白地の沙なかがやく娘の肌表もての
漠原に連れていかれ たち竦くんだ
姉弟の竿燈語りが忽ち身を包み込む
弛らかな丘の錐起のあいだに傾斜の
拡びる 無欲くな谷にに路
さえぎるものはなにひとつない
戦死者の館(ヴァルハラ)
このかくもいとおしい光景をほかの
どの雄床公にも託たしたくないよ
稚いこころにはじめて我執という藍
の闇に燦゛ら澱いた感情が芽映えた
時代錯誤の辰巳を棄てよう