OMMITSU姫
蓬姫は隠密である
床読繁良と天下分け目で闘かい
敗れた反逆者桶地蟄筆を誅した
靼場の土豪の末娘という役割で
曰く付きの出自をわざとまとい
権勢者岸田睦成の養女に迎えられた
旧家侍女団と共に甕岡城に入城した
しかし侍女団はじつは全員戦闘職員
夜ともなると奥所の裏を伝い犇って
奉つりごとの狡猾な諜報戦を展開し
機略に従って東府へ垂れながすのだ
蓬自身も人肌色の網目帷子の装束を
四肢以外の素肌の上から直に装つみ
天井裏から機会捜り跋扈する宿めだ
あるとき睦成公から床伽の命がきた
『ついにきたわ』寝首をかく好機
譬えことが成就したあと万一討たれ
その場で仮初の身が果てたとしても
確実にあとの歴史は流転する
未来を還元するためこの時代に
帯命してきた甲斐がある
そして蓬は閨屋で権力者の御頸を
研いだ爪で裂き朱けに染り乍がら
自分の元いたひどい時代には一体
どんな新しい花が咲くのだろうと
剥だけた乳の底をはづませ乍がら
近衛たちの突き槍に胸腹串かれて
鮮血の池に漬り虚無を滑っていった
やがてもとの時代に意識だけ帰還し
護体槽の中の元のからだで目覚める
するとそこはどこぞの三あみさげた
異星人が携たらした細菌に蔓延蹂躙
されており出発る前よりもよっぽど
ひどいせかいになっていた