空(スカイ)姫
『レイディ、セット、ゴォッ!!』
掛声と共にキャノピーを立ち上げる
わたしはいまからそらを駆けるもの
ーースカイウォーカーを気取る
ベテランの域にはまだほど遠いけど
わたし自身がこんな自分カッコイイ
と感じてるんだからそれでいいのよ
賃金安いパートでお金貯めて
ワゴンを手に入れたわたしが
はじめていった山のドライブで
であったパラグライダークラブの
山腹の緑豊かなフィールド
若さゆえの刺激と次に拠り所にする
目標の行方に餓えてたわたしは
そのまますぐ跳びついた
そう わたしは空を飛ぶんだ!
『 飛びたいっ!』
子供の頃見上げて夢見た
あの鳥のように
ううんそうじゃない
昔みたアニメで自由に空を舞ってた
風の谷のナウシカに感銘受けて
それからずっと飛びたかったんだ
その見果てぬ夢がいま叶う
そうしてわたしは初フライトを果す
それ以来わたしはせっせと働いた
給与を次々と惜しみ無く
ギア(道具)の購入につぎ込み
彩鮮やかなキャノピーやハーネスを
かなり背伸びして手に入れ
終いにはベテランたちの挑どむ
空で滞空時間と機跡の美しさを
競う大会に無謀にもエントリー
するようになった
自意識に飢えてたこころの内が
わたしはもっと上に揚がれる
より高いところに往けると
熱に浮かされたようにささやいて
わたし自身の突きあがる自惚れに
歯止めが掛からなかった
ホント ガラにもなかったのにね
そうやっていたある日
夢は唐突に終わった
大会の最中機体操作を誤り
わたしは地上に転落
奇跡的に一ヶ月の骨折だけで
すんだが見舞いにきた母に哭かれ
その涙を見てホトボリが醒めた
病院のベッドのなかでおもった
これからは 地に脚をつけた
あたりまえの人生を送ろう
バイオリンとかサックスとか
中国の胡弓とかを真面目に習らい
命を喪う恐れのない地道な趣味を
手にして母の生きてる限り
絶対哭かせない余生をすごそう
それでもわたしのこころはスカイ姫
翼がなくなってもこころはやっぱり
翔んだ日々のことを忘れられない
青いそらや羽ばたく鳥たちみあげる
たびわたしにはほんとうに風と共に
飛んでいたあの日々があったんだと
なんどでも誇らしく胸を張って
ふり返るんだろうね
まあきっと死ななかったから
それができるんだろうね