ロオ プウ ェイ
むかし親が生きていたころ
父とロオプウェイで登った鋸山
少年の時分の俺は生まれてはじめて
こんなにもたかいところまできたと
世界を見下ろしてみてわくわくした
母とロオプウェイで登った榛名富士
数少ない車でのドライブの途中
早春すぎてしろい息はく老いた母の
よこがおが蒼白くはかなく感じ
十数年後のとわの分かれすら
暗示していたように想える現代
いま俺のまえにはまた暗黒へと
俺を招くロオプウェイが待っている
心元ない綱の向こうは全く視えない
運命を悟ってゴンドラに乗り込んで
あちら側にわたろうとすると
降だり傾斜のとちゅうで
父と母の映像が建ち塞さがり
まだこっちへは来るなと二人して
両手をひらいてさえぎった
モオニンブロオと鳥の囀りのなか
めがさめて昨夜満員電車のなかで
唐突に意識がなくなったのを知り
また おもいまぶたがなみだで
グッショリ濡れているのを感じた
まだ彼ちらへは往けなかったのか
此ちらでこの俺にまだどのような
やることが遺こされていると
いうのか
ゆれる人生のペンライト