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双 月 の 韻 律


『この2つの月鞠柑は わたしの
であってわたしだけのものでは
ないの』そういって葺前美猿は
俺のユビ をじぶんの恥球の凸天に
嵩さねて暴虐に触れさせた
『これあなたのものでもあるのよ』

陥没した火口のような外輪山が
痙攣と微震を繰返している
ふっふんふっふんフっフン 噴糞ン
衆々のメを盗んで乳繰りあう俺たち
背徳の緋儀に終始こぅこつとなり
狡猾に敵ての上にマウントしようと
互いの位置を入れ替えてばかりいる
俺たちの骸骨


美猿の句トバに耐えていた尖端の
堰が外れ穢がれたものがとび出した
のを汁った

尻手の駅に着き互いの軆だを離なす



車両の周りは不自然な海面の湛たえ
がどこまでも猟う猟うとつづく
りずみかるな脈動の波は止らない
う練り呑みこむ呻めき悶え疼き込む
ぐっくんぐっくんぐっくんぐっくん
ああそうだ
この尻手駅もげんぢつじゃないゾ
ただの俺の妄幻なのだ
葺前美猿というむすめは実際は
在ない
嫁もなく こいびともうまれず
ニッポ軍の 一兵隊のままで
あすにも生涯おえる俺の哀れな
未練と怨念の産物にすぎず


俺はねだられるまま
膝枕され双の耳朶を雨噛みした
鉄のかほり ホネのかほり
塩素の混入した雨の柱を感じる

ああだめだ
すっかり脳のなかをやられて
いやがる
アタマガ オカシイ
ナンダカ オカシイ
スベテガ オカシイ


だがどうか
にげずに 観ていてくれ

これが自己の矜持を棄て
まやかしの峡悦に篭たった
背信敗残兵のまつ牢なのだと
俺が喪えたあとも後の時代に
承たり 連たえるがいい
虚ろに 錆び赤銅いろに



『なにをしているの? さあ
やり直しましょうもう一度』

美猿が掌を差しのべてくる
『なんどでもいくどでも
あなたが厭きるまで
わたしを葬るそのときまでね』

そして俺はまた差しのべられた
掌を採ってしまうどの阿呆う
自己の余命があと幾ばくかも
わからないのにな 無恥め
傀儡つめ
観客聴衆奴藻め


21/08/27 06:40更新 / OTOMEDA



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