銀河交通バスの停留所の凪
バス停で
おおぜいの人影が待っている
次の便はまだ来ない
登校途中に通りすがりの
おれは呼び止められて
その集団の特殊な事情に巻込まれた
にいちゃん
おとといダンプカーに轢かれて
ぺしゃんこになったはずの
カムパネルラおじさん どうしてここに
生れ故郷にいまから帰るんだ
ここにいるみんなとな
にいちゃんもどうかね
今つらいんだろ?みてればわかったさ
死者からの呼びかけに抗らがえる生者っ
てそんなに多くないしおれの精神は
さほど強くなかった
きがつくと到着した謎のバスの中に
吊り革につかまって揺られていて
乗客たちの生前の与太話に恍惚となって
ミミを傾けていた おれの意識は
かんたんにふたつの世の
境界を越えた
オギャぁオギャぁ
アカンボウの聲
ああこれはおれ自身の声
父と母の会話が聞こえてきた 結構若い
『げんきな子ね』『生まれてよかった』
『なまえはどうする?』
『ジョバンニと名付けよう。わたしたち
二人を結びつけた名作からの引用だ』
そうか これはじぶんの人生の再生
やり直しか と昔そうだった新生児の大脳
のなかでうすれかけた前世のおれの意識
は芒漠とおもった
それは太古からいくども想像されてきた
仮説の追体験
魂がじつはエンドレスになんどでもなん
どでも LOOOP しているという 生者が
決して証明しようのない仮説
前世でおれは不幸な境遇の学生だった
身もこころもずたぼろにされて自死を
望む寸前だった だがこうしたチャンス
を復び得て似たような人生をくりかえし
なぞると 愚かだった遺伝子たちが経験値
積んで都度辿る行程の経路を変える毎に
辿り着く先の結果がすこしづつ変わって
ゆくのかもしれないね ねえかみさま
無数の世界線のもつれ合いに揉まれ
sighなまれながらも
それは進歩ではなく退行かもしれない
でもほどこうとする試行は徒労
生死のリズムの宿ゅくに総運をあづけ
両世の迫ざまに横たわって 唯 だ
凪 がれていく
凪 ぎの静謐にミミをそばだてながら