ママ待つ街
おれは二十年前に生き別れたママが
浜松にいると知って会いにいくことにした
腐れ縁のガールフレンド千籾が頼みもしないのに かってについてくる
なんできたんだよ と避難がましいおれの口調にも狼狽えもせず
「面白そうだったから」と嘯いた(ブイブイ)
「で、あんたのママがいるってのはシンバシのつぎ?」とかいってるので おれは呆れ返る
なんてバカなオンナだ
それは浜松町
結局おれたちは余分なお金もない○貧旅行なので
混んでる東海道新幹線の自由席車両のデッキで顔と膝を寄せあって
珍道中を展開する羽目になった
ひっきりなしにしゃべりつづける千籾をあしらいながら
おれは思索に独りしずむ
おれと引きさかれてそのご捜してもくれなかったママは
いったいどんなヒトだったのだろうなどと
やがて列車は浜松駅に到着し
おれたちはママだという人物に面会した
痩せきって余命幾ばくもない と疲れた笑み浮かべ語る彼女は
かってについてきた千籾をおれの女房だと勘違いし
浜松名物のうなぎパイと餃子の包みをもたせてくれた
そして自分の最期を看取ってくれる契約の看護士さんといっしょに
手をふって送りだしてくれた
帰京する列車が発車してから
さて 今回のこの駆け足だった旅にいったいどんないみがあったんだろうと考えていると
千籾が妙に発情してきて 仔猫のように斜め下からおれに流し目をくれ囁いた
「やっぱし 結婚しちゃおうか。おかあさんのために」
この日いらいおれは それからほどなく不運な生涯を全うしたママと千籾という
ふたりぶんの面倒くさい呪いにまつろうことと陥り
ハママツはおれの人生でもとりわけ因縁のふかいばしょと化したのだった