ポエム
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一期一会
遠い日母と歩いた道を

今日は娘と一緒に歩く

七国山の坂道を上って下りれば

薬師池

水辺に咲く藤が

美しい房を垂れて

私たちを迎えてくれた


休みが合って良かったね

娘が言えば

つき合ってくれてありがとう

私も答える

花の見頃は束の間で

満開に会えることは滅多にない


去年ひとりで来たときは

あまり咲いてなかったのよ

あれはちょうど今頃だった

花を尋ねてあちこち周り

牡丹やえびねを見たことを話す


一年てなんて早いんだろう

今日の花は今日だけの花

次に来たときはもう会えない

一期一会

人もそうね

親子も親しい友だちも

今日のことは今日だけのこと


時を刻めば思い出になってゆくのね

この子とも


紫の藤

白い藤

やさしい香りを漂わせ

新緑を背に揺れている

いにしえの万葉の世界を見るようで
 
いつまでもいつまでも

ふたりで眺めていたかった


帰り道ふと思う

また一緒に来る事はあるだろうか

母と来たのも一度きりだった

知らずに繋いだ手をぎゅっと握る

どうしたの?痛いよ

娘が驚く

ごめんね力が入っちゃった

笑顔を向けて楽しい時間をあとにする


覚えていてね

今日という日を

一期一会

ふたりで尋ねた薬師池に

きれいな藤が咲いてたこと

たった一度の七国山の春のこと





23/04/18 16:41更新 / 香弥



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