ポエム
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春が来て彼岸
春の彼岸は何度目か
花を抱えて通る道
坂を上がって階段を下りて
一番奥に向かう道

昨日の雨で墓所は
しっとり濡れそぼち
日差しを浴びて
桜の蕾も綻んだ

あちこちに供えられた
花がどれも美しく
お参りした人たちの
思いが咲いているような
温かく迎えられているような
そんな気持ちが湧いてきます

小高い場所の端に佇む
墓はささやかで
右手のフェンス越しに
遥かに連なる山が見える
山で育った父は
この景色が良かったのかな

澄んだ空を見上げて
やっぱり晴れたね
みんなで笑って
晴れ女の誰かさんに感謝した

今日はお茶を2本
線香も2束
そっと供えて手を合わせる
ひとりのお墓がふたりになって
また毎日互いに言い合って
笑って怒っているんだろうね

いつもなら父の健康をお願いして
みんなを見守ってほしいと祈るけど
今日は何にも浮かばない
ただふたり共にあってと思うだけ

頑張り屋の似た者同士
とうとう一緒になれたね
もう安心だ
心配いらない

墓を見つめて近況報告
みんな元気よ
私 仕事を変わるのよ
いい所だったけど終わったの

涼やかな風が吹き抜け
さらさらとそよぐ
ああまたあの声がする
いつもの声

しっかりやんなさいよ、あんた

聞きながら自分に向かって
呟いた

また働くから
まだまだ働けるだけ働くから
お父さんとお母さんのように

止まない風が頬に触れて
私を抱いた

しっかりやんなさいよ
しっかりね

何度も聞こえる

いつも明るく強くいられたら
ほんとはそれが一番いいの
だけどこんなときは
知らずにじわり滲んでぽろり

あふれる心を噛みしめる

また来るね
別れを告げて歩き出す
階段の途中で振り向けば
フェンスの向こうの
空が眩しい

線香の白い煙が
たなびく墓で
見送るように
やさしく花が咲いていた

23/03/20 12:26更新 / 香弥



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