昨日より明るくなった空の下

咲き始めた寒桜が春の到来を告げる

たくさんの蕾の中から

薄紅色の花がのぞいて初々しい


眺めているとかなり年配のご夫婦が

やって来た

もう桜咲いてるの

寒桜だって

空が青いからきれいに見えるね

ふたりで仲良くおしゃべりする様子に

ほっこりする


あと何回見られるかな

奥さんが言った

何十回だよ

答える旦那さん

それはないね

さらりと言った言葉に返事はなかった

その沈黙にふいに切なさがよぎる


歩きだして振り返ると

ご夫婦は並んでじっと桜を見上げていた

心に焼き付けるように

そんなふたりを見つめながら

あなたを思う

あのご夫婦くらいの年齢になった

あなたと私を


私たちも過ぎゆく年月の中

めぐり来る春を迎えるたびに

桜を見るのだろう

そして来年もその次も変わらず

一緒に眺めたいと願うのだろう

あのふたりのように


もう一度青空に映える寒桜と

ご夫婦の姿を見つめ心の中で声をかけた

これからもずっと

ずっと仲良く桜を見に来て下さい