それは雨上がりの午後の出来事

虹を追いかけた
運転中の僕を誘うように
現れた大きな大きな虹
捕まえたくなって車を走らせる

消えないで
すぐ行くから
どうかそのまま
坂を上り麓を目指した

広い場所にとめて
スマホを片手に外へ飛び出す
急いで見上げたら
ああ　なんでだよ

消えちゃった

一瞬目を離したすきに
虹は跡形もなく消えていた
僕をからかうように
おぼろげな色さえ残さず

がっかり

絶対撮りたかったのに
手の中のスマホを握り締め
戻ろうと振り向くと
すぐ後ろにスマホを持った少女がいた

目があった瞬間にわかった
僕ら別々の場所であの虹を見て
追いかけて来たんだ
僕は車で　彼女は歩いて

消えちゃいましたね　と彼女
その声　その表情

たった今まで出てたんですよ　と僕
この声　この気持ち

一緒だ

空に溶けてしまった虹
しぼんでしまった心
互いに落胆を隠せない
おんなじ思いの僕らがいた

彼女はすぐそこで撮ったんですと
スマホを見せてくれた
さっき見た大きな虹だ
鮮やかな色が空にくっきりと映えている

彼女の弾む心も
そこに写っているようで
とても特別なものに思えた

きれいに撮れてますよ
ラッキーでしたね
羨ましさがつい出る

もっと撮りたかったんですけど
急いで歩いてきたのに
彼女はまだ悔しそう

でも一枚でも撮れたんだから
なぜか撮れなかった僕の方が慰めてた
ありがとうございます
彼女はぺこんと頭を下げて去って行った

不思議だ

僕らはあの虹を見て
同じように追いかけて出会ったんだ
逃した僕と
捕まえた彼女

一期一会か

虹を追いかけた二人が出会う
なんだか素敵な気分になった
またどこかで会えるといいなぁ
虹と彼女に

■作者メッセージ
映画ならこの二人はまたどこかでばったり会ったりします(*^_^*)