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お世辞にも美味しいとは言えない
今日の夕食の
ビーフシチューは
お世辞にも美味しいとは言えない味だった

いつも買わない牛肉を
間違えて買ってきてしまったため

父がわざわざ
ビーフシチューのルーを買ってきて
丹精込めて作ってくれた

だから
「美味しい」と言いたかった

けれど
いざ食べてみると
味がほとんど
ない

父から
「どうだ?」と聞かれて
一瞬沈黙

しばらく考えて
私が言った言葉は
「ちょっと味がないかな。
薬局で買ってきたルーだから
仕方ないよ」

美味しくないのは
父のせいではないと
意味を込める

父は
「薬局のルーは量が少ないから
味が薄かったね」と言って

結局
誰からも
「美味しい」の言葉が
出ることはなかった

いつも
美味しい食事が出るのが当たり前で
「美味しい」と言い合うのが
普通だったから

今回の夕食は
とても残念極まりなかった

だけれど
「不味いね」という言葉が
出ることもなかった

それを言えば
父の頑張りを否定することになるだろうから
私は言えなかった

何より
その一言は
楽しい食卓の雰囲気を
一瞬にしてぶち壊す

だから
「不味い」という言葉が出なかったのは
父娘、お互いの
気遣いと思いやりの表れだと思う
21/10/12 20:26更新 / アキ



談話室



■作者メッセージ
今晩の夕食はビーフシチューでした。
美味しくなかったとしても
不味いと言って、作ってくれた人の頑張りを否定したり
雰囲気をぶち壊すような真似はしたくはないです。
というのが私の考えですが

うちの母は率直に「不味い!」を言う人なので
母がいるときの食卓はしょっちゅうひやひやしますし
度が過ぎるときはイラっとします。

美味しいという言葉は出なくても
それなりに食事を楽しむことが出来ました。
美味しくなくても
父の想いが料理にこめられているのを感じているからでしょう。

お読み下さりありがとうございます。

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