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ただいまとおかえり その1
「ただいま」
夜遅く、だいたい夜中の11時くらいになって
帰ってくる母親。

「おかえり」
何となく友人とのラインで時間を潰していたヒロキは
帰ってきた母親のミユキをチラ見して
そう返すと再びラインに意識を戻す。

ヒロキは男子高校生。
普通の高校に通い
勉強も部活もそれなりにこなし
仲の良い友人にも囲まれて
毎日がそれなりに楽しかった。

ただ
一日の締めくくりで
会社で朝から晩まで忙しく働いて帰宅してくる
母親とのこのやり取りをすることで
楽しかった気分が一気に興ざめしてしまうのだ。

母のミユキと父親は
ヒロキが3歳の時に離婚していた。

ヒロキが物心つく頃には
ミユキは朝から晩まで会社で働き
保育園では最後の一人になるまで残って母親を待ち
小学校に上がる頃は学童保育や児童館で遅くまで母親を待っていた。

地域の人達や学校の友達が良くしてくれて
周りの人達に支えられてヒロキは今日まで育ってきたため
そんなにしんどく感じることはなかった。

ミユキが女手一つで自分を育ててくれたことには感謝しているし
会社でも割と信頼されているらしく
重要なポジションで働いているという話を聞いていたため
息子の自分はそれを理解してやるのが当たり前と考えていた。

それでも
早朝に出勤してしまう母親とは朝に顔を合わせることもなく
帰宅する夜遅い時間に初めて顔を合わせて眠る日々。

母親との顔を合わせれば
「ただいま」と「おかえり」しか言葉がない。

母親は仕事から疲れているため
帰宅したらすぐに用を済ませて就寝してしまう。

休日も仕事を持ち込み
休んでいる様子をあまり見たことがない。

絵に描いたような仕事人間で
母親の都合を理解してはいても
ヒロキはミユキのそんな行動を見てあまり良い気持ちがしなかった。

その日がどんなに楽しくて
良い気持ちで過ごせたとしても
ミユキの「ただいま」の一言で全てが吹き飛んでしまうのだ。

自分が「おかえり」と言っても
それ以降会話が進展しない。

それが普通だったから
ヒロキはそこまで気にしていないつもりだった。


ミユキとの「ただいま」と「おかえり」を
どれだけ繰り返しただろうか?

小さい頃から数えていたけれど
いつしか止めてしまった。

数え切れないくらい
そのやり取りを繰り返し
ヒロキは高校を卒業した。

大学に進学するために
ヒロキは家を出ることにした。

「母さん
俺、行ってくるよ」

ヒロキは
初めて「おかえり」以外の言葉を母に掛けた気がした。

だから
「行ってらっしゃい」とか
「気をつけてね」とか
そういう言葉を期待していたんだ。

しかし
ミユキはヒロキを見て
「そう」と言ったかと思うと
「仕事行ってくる」と言って家を出てしまった。

その時
初めてヒロキは
母親に対して怒りを感じた。

あぁ
この人は
最初から最後まで
こういう人だったんだ。

ヒロキはそう納得して
胸の中にこみ上げてきた思いを押し殺しながら家を後にした。


ーーーーーつづく

26/02/18 16:37更新 / アキ


■作者メッセージ
物語3本目です。

お読み下さりありがとうございます。

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