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夢の世界の先へ その2(終)
「えっと…宿題、いつもありがとう」
愛子は我に返って
母に言われていた言葉を伝えた。

「ん?あぁ、宿題ね。
良いよ。
通学路が同じなんだから」

この子は良い子だ。
多分、私のこともついでだよね。

「久しぶりだね。
元気にしていた?」
ミキちゃんはにこやかに言う。

「うん」
反射的に返す。

「…」
ミキちゃんはしばらく黙って愛子を見つめた。

「元気じゃないよね。
何で嘘つくの?」

「え?」
予想外の返答に愛子は驚く。

「なんでそう思うの?」

「だって
学校に通っていたときと同じ顔をしている。
全然元気じゃないよ」

「…」

夢の世界で生活するようになって
自分は劇的に元気になったはず。
それなのに元気じゃない?

いや、それよりも
びっくりしたのは…。

「学校に通っていたときと変わらないって
私とは挨拶くらいしか関わりないのに
何で分るの?」

「分るよ。
毎日顔合わして挨拶するだけでも。

いつも無理して笑顔を作って
みんなに気を遣って色々動いて。
悪いこともしない。
失敗もしない。
いつも良い子に振る舞って
それじゃぁ大変だよな、って
そう思っていたら学校に来なくなって。

あぁ
疲れちゃったんだなって思って
何となく心配になったから
先生に「愛子ちゃんのためにできることはない?」って聞いたら
宿題を届けて欲しいと言われたの」

「…そう、だったの?」

まさか。
私の良いこの振りも
弱みの何もかもをこの子に見抜かれていたなんて。
しかも
宿題を届けてくれていたのはこの子の意志だったなんて。

あまりにも予想外すぎて
それ以上言葉が出なかった。

自分をここまで気にしてくれる子がいた。
その事実は嬉しい。
だけど。

「私は、まだ学校に行けない…」

行く勇気が無い。
そんな弱い自分が嫌い。

「良いよ
少しずつで。
待っているから」

「…」

愛子はミキちゃんに
やり終えた宿題を渡し
ミキちゃんは愛子に新しい宿題を渡して
帰宅した。

ミキちゃんに対して
あまり良い印象を持っていなかった自分が情けない。

良い子を演じていても
結局自分のことしか考えていなかった。

「愛子ちゃん
どうしたの?
何か悩み事?」

愛子はハッとした。
今、愛子は
夢の中の学校にいる。
授業が終わって休み時間が始まったのだ。

「え?
ううん。
何でもないよ」

「そう?」

「愛子ちゃん
お願いがあるんだけど」

横から言葉を挟んでくるのは
ユキノちゃん。

「これからちょっと
抜けられない用事があって。
代わりに日直の仕事
代わってもらって良い?」

ユキノちゃんはそう言って
ニコニコしている。

その笑顔に
何だかイラついた。

「ごめん、無理。
私やれない」

いつも引き受けてしまう愛子の
まさかの反応。

何が起こっているか分らず
ユキノちゃんは呆然とした。

「え?何で?
愛子ちゃんも何かあるの?」

「無いけど」

「なら
やってくれるでしょう?」

「なんでそうなるの?
意味分らない」

「何で!
こっちも意味分らない!」

ユキノちゃんは声を荒げて
その場を立ち去った。

愛子は初めて
人に反論した。

そして初めて
良い子を辞めたのだ。

周りはこの光景に騒然としていたが
休み時間が終わるといつも通りに戻った。

良い子を辞めるのは
正直怖かった。

でも
愛子は今までの味わったことのない
気持ちの晴れやかさを感じていた。

あぁ
そうか。

愛子は気がついた。

結局ここでも
私は良い子を演じてしまっていた。

ここのみんなは
私を気にしてくれる。

でも
気にしてくれる愛子は
「良い子」の愛子だ。

良い子だから気にしてくれているのか
そうでなければ気にしてくれないか。

それを確かめるのが怖くて
ここでも良い子を演じてしまっていたんだ。

そしてやっと今
良い子を辞めることが出来た。

あぁ
よくやったけれど
どうしよう…。

「愛子ちゃん。
無理しなくて良いよ」

そう言って
手を差し伸べてくれたのは
ミキちゃんだ。

「ミキちゃん」

夢の中のミキちゃんも
現実の彼女と変わらない笑顔で
私と向き合ってくれている。

「一緒に帰ろう」

「うん」

やっと
言えた。

夢の中で
何度も誘われるその誘いを
やっと受け止めることが出来た。

「ねぇ、ミキちゃん」

「なあに?」

「ユキノちゃんに対して
あんなこと言っちゃったのを見て
ミキちゃんは何か感じた?」

「全然。
私だってあれは断るよ。
だって引き受ける必要ないじゃん。

愛子ちゃん
やっと自分の気持ちに正直になれたね」

「…」

夢の中のミキちゃんは
こんなにも優しくて
私を受け入れてくれている。

それなのに…。

「ミキちゃん。
今までごめんね。
ずっと避けていたね」

「良いよ。
気にしていない。
それより
愛子ちゃんが自分の気持ちに
正直になれたことが嬉しい」

ミキちゃんの
その見返りのない優しさが本当に沁みる。

「ミキちゃん。
夢の中のミキちゃんは本当に優しい。
現実のミキちゃんがそうだからなのかな?」

「さぁね。
そうかもね」

自分が夢の中の存在であることを告げられても
あっけらかんとしている。

「もし
現実のミキちゃんも
あなたのようならば
外の世界のあなたに会いに行ってもいい?

一緒に
学校に行きたいよ」

「良いよ。
もちろん」

ミキちゃんは
愛子の手を取って
一緒に駆けていく。

そこで愛子は
目が覚めた。





愛子は久しぶりの現実世界の外の空気を思いっきり吸って
玄関を出た。

「愛子ちゃん
おはよう」

声の方を振り向くと
彼女が手を振って
こちらに向ってきた。

「おはよう」

愛子は
恐る恐る歩み出した。

「大丈夫だよ。
私が付いているから」

「ミキちゃん
私は…」

「無理しなくて良いよ。
じゃあ
出発!」

ミキちゃんの「無理しなくて良いよ」は
お世辞ではない。

心からの優しさがこもった
思いやりのある言葉だ。

愛子は思った。
まだ怖いけれど
ミキちゃんが一緒ならば大丈夫。

少しずつ
良い子を辞めて
本当の自分を出していこう。

自分の中に芽生えた小さな勇気と希望は
これからちょっとずつ大きくなっていく。

愛子はそう信じて
歩みを進めていった。


ーーーーーーーーーーーおわり
26/01/20 16:44更新 / アキ

■作者メッセージ
物語が完結しました!

お読み下さりありがとうございます。

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