嫌われてもさ
「君、僕のことが嫌いだろう。いや、視界に入れるのも嫌ってくらいに疎んでいるのか。そこまで僕を嫌いになれるだけの理由があるなんて、君は余程感情に好かれているらしいな。」僕はそう言って、見え透いた感情に笑いかけた。君は本気で僕を睨みつけて、視線で殺せるなら殺してやりたいと雄弁に表情だけで語っていた。僕の何がそこまで君の心を昂らせたか、思い当たる節はある。僕は君から、すべてを奪った。過去も未来も、真実も嘘も、君が大切だと思うものをすべて、君から奪った。そうしてあんなことを騙るんだから、君が僕を殺したいくらい憎んだって当然だろう。そんな感情を向けられてさえ、僕は君を慕っているんだから、救いようがない。歪んだ性格を直す術があればよかったんだけれど、僕は君だけには素直になれない。軽口を叩いて憎悪を滾らせ、優しい言葉で奈落へ堕とす。そんなことばかり繰り返していたら、君もいつか僕を見限るだろう。けれどその時さえ僕は嗤うのだろうね。「君の嫌いという感情を独占出来てよかった」と。歪みきった歯車は、僕と君を突き放すばかりなんだ。君が僕を好きにならないことだけが、救いなのかもしれないね。