本当は
触れないことが君の優しさなのだということには気が付いている。触れて欲しかった。手を繋ぎたかった。目すら合わせられなかった私だけど、歩きにくかったかもしれないけど、あの距離が私の精一杯だった。君は狡いよ。改札を通って、振り返ったら君が手を振っていたから振り返そうとした。けれど、手が動かなかった。上手く笑えなかった。君が消えたのを確認して、このまま別れたくないと思った。だから一度改札を抜けて追いかけた。痛む身体を軋ませながら、君の背中を探した。走り寄る私を待つ君、駆け寄る私、服の裾を握って告げた言葉は「ありがとう、ごめんね、会えて嬉しかった、気をつけてね、またね、」泣きそうになりながら涙は見せなかった。それだけを伝えたかった。好きだとは言わなかった。返す声が優しくて、私はまた恋に落ちた。「うん、ありがとう、気をつけて、またね」そんな言葉が嬉しかった。二人で会えたなら手を繋げたのかもしれない。けれど二人だったらきっと負担ばかりをかけてしまったかもしれない。服の裾を掴んだのは、友だちの言葉に押されたから。どうしても好きな人だから、どうしてもこのままは嫌で、いつかまた手を繋げる日が来たのならその日まで頑張ろうと思った。嗚呼、今日も私は、呆れるくらいに君が好きだ。だから頑張れる。身体に力が入らなくなることも、痺れも、心の不和も全部抱きしめて前に進むよ。君の隣にいきたいんだ。