時間
沈黙に意味を探すような無粋な真似はやめにして、僕と君だけの沈黙を幸せと感じよう。何も言わなくていい、何も言わないよ。伝えたいことが見つかったら言ってくれ。見つからないなら言葉を一緒に探しに行こう。以心伝心なんて出来はしないからその代わりだ。時間ならそこら中にある。けれど僕も君も、時間を手にすることはない。時間に使われることもない。僕は時間と共に生きているし、君は時間の流れを楽しむことの出来る人間だ。僕と君は違うけれど、時間への思いは似ていたような気がする。日々を愛していたかはわからないけれど、僕と君は、きっと互い以外を必要としていなかった。互い以外を見てはいなかった。それだけでよかったのなら、互いだけでよかったのなら、何も求めはしなかったのに。君しかいないのならよかった。僕の世界が君だけならよかった。君だけなら。そうしたら僕は臆面なく君を憎めたし、恨めたし、愛せたのに。沈黙が心地いいなんて、君だけだったんだ。君は今何処にいるのかな。何処にいたとしても、繋がっていると、信じていられた日々が懐かしい。世界に君だけじゃなくなって、君以外を大切に思うようになった今でも、僕は君を思い出す。あの頃、僕等を繋いでいたのは「時間」という、ただそれだけの、ただそれだけで確かなものだった。