短歌の本『世界で一番すばらしい俺』を出版しました!
歌集『世界で一番すばらしい俺』を短歌研究社から出版してそろそろ一年になります。
『世界で一番すばらしい俺』には331首の短歌が収録されています。
一周年を記念して、その中から20首の抜粋ををお届けいたします。
ではどうぞ。
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この人にひったくられればこの人を追うわけだよな 生活かけて
公園の禁止事項の九つにすべて納得して歩き出す
十七の春に自分の一生に嫌気がさして二十年経つ
問題に取り組むよりも問題を忘れることで生きのびてきた
おそろしい形相をした歳月がうしろからくる 前からも来た
風景を見てるつもりの女生徒と風景であるオレの目が合う
ぼくは汽車、汽車なんだぞー! と駆けてきた子供がオレにぶつかって泣く
この当時オレが笑っていたなんて信じ難いが夏の一枚
傘を振り落ちないしずくと落ちるしずくどこが違っているのでしょうか
電柱を登ってゆける足がかりとても届かぬ位置より生える
「引」と書いてあるけど押しても開くのが分かっちゃったし肩から行くぞ
うしろまえ逆に着ていたTシャツがしばし生きづらかった原因
非常時に壊せる壁を壊すのはオレには無理だオレにはわかる
秋がくる 床屋の椅子に重大な秘密があって欲しいと思う
三人で歩いていれば前をゆく二人とうしろをゆくオレとなる
坂道でアイス食べてもいいかねえダメかねえもう三十八歳
四十になろうというのに若者に向けた批判を身構えて聞く
うっかりと入っていくと晩飯をふるまわれそうな灯りの家だ
オレ以外みんな真面目に生きていて取り残された気のする深夜
眠るため消した電気だ。悲しみを思い返して泣くためじゃない
膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺