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ピンクの壁【短歌38首】
ピンクの壁





朝起きた途端に夢はくじかれて強制的な現実のなか



鏡では見たことのある顔をした自分自身で見る窓の外



道端に落ちてるマスクを無理矢理に着けさせられる予感 朝もや



ベランダで煙草くわえる男性に見下ろされれば行き急ぐのみ



まぶしがる顔といやがってる顔の似ていてオレに向けられたそれ



走馬灯ながれるとして見どころのないこともない現時点まで



左手になにか隠した短パンの右手の振りがオレを追い越す



戦えばオレをぶちのめせるだろう中学生の低い挨拶



公園を公園らしく見せるための装置のような利用者たちだ



投球を追ってくわえて駆け戻る犬の賢さ健全である



ゲートボールをしているそばを通るとき「地球は丸い」と声が聞こえた



たくさんの子供がしがみついている巨大遊具を正面に立つ



標識の落石注意に落石は四つ描かれてどれも真っ黒



憎しみがうまく言葉にのってきて舗装途切れて土に踏み出す



N君の家が床屋であることをどうして笑ったんだろオレは



再会のN君に根掘り葉掘り訊かれごまかす二十年の生き方



いいんだよオレのことなどどうだって、などと言いニヤニヤしてみるが



モザイクをかけたみたいだ拡大をしすぎた結婚式の写真は



いつかまた会おうと言ったN君の記憶の顔は顔のみで浮く



みんなして飛び回っててオレだけがうつ伏せなのだ ぼろい畳に



映像で見たか実際されたのかもうわからない裏切りのこと



公式を用いてオレの持つ価値をゼロと証明しそうな人よ



媚びている自分醜く頑迷な自分到底見れたものじゃなし



ヘアーサロンNITTAにピンクの壁はありピンクだけれどどうしても壁



遠近感狂いはじめて森林が心の奥にあるようである



淋しげな道を選んで散歩して灯りのような桜に出逢う



過剰から散る花々の母親の給料後数日のパチンコ



春になるとおかしな人が出てくると聞こえて自分の胸に手を置く



木でできている電柱を灰色の春の日暮れの下に見上げる



トラックに轢かれ死のうと考えてややふらついただけの車道だ



母親に今日は三千円貸した春の酸素が鼻から入る



夕方のテニスコートをよく見ると二人いてオレを足すと三人



見えてないみたいに避けるヤバそうな人を虚ろなオレや誰かが



なつかしくさせる光の××○××夕陽はフェンス越しにオレを突く



立ち並ぶ夜の桜の一本の一部を特に照らす街灯



うるせえと注意している声だけがオレの耳まで無事たどりつく



何をしても間違っているような夜に縄跳びの音、それも二重跳び



金属が金属を打つ音が五回、六回あってあとは暗闇




19/10/13 18:52更新 / 工藤吉生



談話室



■作者メッセージ
短歌は57577。季語はいりません。

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