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人狼・ぼくは【短歌30首】
雑誌『短歌研究』2018年10月号で発表された「短歌研究新人賞受賞第一作」30首の「人狼・ぼくは」をここに公開いたします。




短歌の総合誌の新人賞を受賞すると、直後に「受賞後第一作」というのを依頼されます。雑誌『短歌研究』の場合は9月号に受賞作品30首が掲載され、10月号に新人賞受賞後第一作30首が掲載されます。
これは新人賞作品とは違って選考などが無い、作品発表の機会であります。

オレは「人狼・ぼくは」という題名で30首を発表しました。「人狼」というゲームがあって、その要素が入っていますが、知らなくても読めるようにしたつもりです。
それではどうぞ。






人狼・ぼくは    工藤吉生



作文をいつも「ぼくは、」で書き始める素直なオレはどっか行ったよ

いいことはなんもないけどももいろの花をながめてだましだましだ

信号を待ってるあいだ灰色の壁を見つめる 透けりゃいいじゃん

力こめ丸めた紙が(ゆるせないことだが)元に戻ろうとした

ガムテープ貼られた郵便受けのこと思い出してる橋の中央

なぜオレをブロックするかわからない。わからないのが原因だろう

マーガリンの違いだったら知らねえなマーガリン野郎に訊けばいいだろ!

がんばろう? それは地震のやつですか今それオレに言ったんすかね

一杯の水にうるおう人間を一億倍の水はのみこむ

魔女狩りを一千分の一にして人狼ゲームに人はうるおう

むらびとを殺しオオカミ守りぬく選考会を立ったまま読む

占い師ふたりが互いを嘘つきとののしっているレンタル和室

なぜこんな植物も知らないのかとうすらわらいだ吊るしてみよう

粉は先、液体スープは後入れと知っているからマウントとれる

本当に思ってるかはわからない「ごめんなさい」にイイネやっとく

「芸術のようだ」を敷いて「食べるのがもったいない」を乗せて完成

触れられて倒れのたうち回ってるサッカー選手を見下ろす主審

テキトーにやってんのかと疑って聴いた祭りの笛のひょろりら

坂道でアイス食べてもいいかねえだめかねえもう三十八歳

生きていてごめんなさいと身を守るため言ったんだイイネがついた

昼に寝て夜起きている日に聞いたまったく獣じみてる悲鳴

まばたきとそのつぎにしたまばたきのあいだだけいたとうめいなひと

いきものをすごく怖がるロボットを頭の中で歩かせてみる

空席の前で吊革持って立つあんたの富をオレにくれなよ

ルーレット回して給料決めましょう人生ゲームの子持ちフリーター

行きたくて行ってみたのさ土砂降りの夜の公園 そっちこそ誰

気が利いてるつもりのオレのあいづちが鳴り響いてるまっくろの部屋

眠ってる人にさわると眠ってるなりに自分を守ろうとする

腹をもむ いきなり宇宙空間に放り出されて死ぬ気がすんの

ぼくは、なわ飛びがとく意です。スキップ飛びが、とても楽しかったです。




19/03/08 10:19更新 / 工藤吉生



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■作者メッセージ
短歌研究新人賞受賞後第一作

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