ゆらぎ
もう初夏の気配もあるような季節。水田が広がる景色を通り抜けて、小さなプードル犬を従えて河川敷まで散歩にきた。河原まで犬の両輪を抱えて降りて行って、そっと下ろしてやると、圧倒的な水の存在にびっくりして、足場が石ころだらけで不安定なのもあり、すぐに撤退したいようす。川の中程が段差になっているらしく水が奔流になっているラインがあり、乱暴な撹拌を起こして、波紋となって拡がっている。しばらく見惚れていると、得体の知れない感覚に見舞われる。この水しぶきも波紋の全部も、小さな分子で出来ている。それを分解すると、原子核を中心にして電子が飛び回る原子で出来ている。つまりこの自分の肉体も川を流れる水しぶきも、地球も、全部ぜんぶ、同じ粒でできてる。そしてもっと分解すると素粒子が現れて、存在するようなしないような、真空の揺らぎに溶けていく。なんだか怖くなったので、プードルの両脇を抱えて、河原から、石の階段を駆け上がった。