旅人
ひとっこひとり、いない世界で
僕だけ銀色の海に立っていて
なみかぜひとつ立たないで
ただ僕だけが立っている
声を出しても聞こえない
叫んでみても聞こえない
喉の震わせ方を忘れてしまったのか
それともここには空気がないのか
遠くに何かが見えた
黒い点がぽつりと一つ
だんだん近づいて きているようで
少しずつ大きくなっている
ようやく見えた彼の顔は
まるでくたびれたロバのよう
灰色の足も、垂れ下がったまぶたも
ぼろぼろのシャツも、ぼさぼさの頭も
すべて何も、意味もなく
ただ僕の横を通り過ぎるだけ
僕はその、真っ白な尾を目で追って
その美しさに時を忘れた
まるで星屑が砕け散るような
その宇宙的な神秘の一房
彼が気づく事は無いのだろうな