ポエム
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あの森では何も起こらない
気が付いて振り向いたら、そこは果てしなく
前も後ろも森の一部になった僕は息をひそめて立っていた
稜線を歩けば、冷たい空気のかたまりが
僕の体をぶち抜いて何事もなく通り過ぎていく

緑をもぐり抜けて辿り着いた場所は
荒涼として、遠くまで風が抜けている

たぶん
最初から誰も辿り着かなくても
この木は、あの岩は、となりの立木は
太陽を浴び雨を受け風に触れて時には雪にしずまり
ただ在ることを繰り返しながら、たまに人が歩いていくのを眺めるんだろう

ベッドに入って眠りに就くとき、ふと思い出す

岩の隙間から伸びた細枝が、その実を重くして音もなく横たわっていようが
生ぬるい風が岩肌に生えた苔や川の水の上をするりと抜けていこうが
葉の隙間から下りた光が、影を切り取って白く浮き上がらせていようが
斜面を舞いのぼる霧が冷たい雲を生成していようが
音もなく降りだした雨が、見渡した草や花を小さく揺らしていようが

あの森では何も起こらない
21/06/05 15:20更新 / 高野杏子



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