下北沢の詠
好きなバンドのライヴティーシャツを着て、自由が丘を歩けたら、強くなれるかもしれないよね。駅前のマックで彼女は笑った。ワンコインでお釣りが来る生活を、過去に経験したものでなければ笑うことはできない。唇の皮が剥けるのをそっと見守ることができないのが、わたしがわたしであることを変えられないように、尊い真実であって欲しい。爪が黒いことを、咎めるひとがいない世界で生きてみたい。指の付け根のピアスも、首筋のちょうちょも、なくてもきっとわたしでいられるけれど、世界にたったひとつのたからものを傷つける、その行為に酔いしれて、生きることのほうが幸せだった。眠いのに無理して液晶をながめることが正義だったころ、いまなんかより、ずっとぼくは孤独なんかじゃなかった。あの線路に立って電車を待つ、夢をときどき見てしまう。わたしのロックンロールは、まだ死んじゃいない。