ポエム
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200円の記憶
香りによっておもいだす記憶は、あまりにも鮮明で、コインランドリーで一緒になった彼から漂うのは、強烈なムスクと最低な思い出だった。それまでは一切忘れていたあの人とのこと、透明だった春に色をつけたこと以外、きれいなものなどなかった。軋む音が、嫌だと言って買い換えたパイプのベッドがいまもまだ、私の部屋にあるなんて知ったら、きみはわたしを罵倒してくれるだろうか。
世界が不安定だから、ときどき地面は揺れるし、恋人たちに別れは来るし、記憶は簡単に飛んでいくのかもしれない。30分なんてあっという間だ、そう感じるのは、ちゃんとわたしが生きているから。ここにいるわたしと、近所のコンビニで立ち読みするあなたの人生は、これからさき、交わることなんてないのだろうけど、それでも嗅ぎなれたムスクを、彼じゃない顔を思い浮かべて、がたつくパイプ椅子で待っている。
ぼくを軽蔑する目が、きみのものだけでありますように。
18/04/26 15:08更新 / 暮月



談話室



■作者メッセージ
君の匂いを、
もう思い出すことは
出来なくなってしまった。
声を失って、
香りも忘れて、
今度は何をなくせば
許してもらえるの。

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