憧れ
人は、自分では到底なれぬものにあこがれるのかもしれない
僕は、僕では到底なれそうにないものに憧れた
素晴らしい女性がいた
彼女は勤勉であり 聡明であり 機知に富み
優しくあり 静かであり そして美しかった
僕が冗談を言えば笑ってくれ 僕の事を呆れつつも心配してくれた
僕はよく彼女の事を人に話した
ある時母に彼女の話をした
母は彼女の事を聞くと、「貴方も見ならいなさい」と言った
僕は笑ってごまかしたが、心中ではとっくのとうになれぬものと諦めていた
或いは、そんな事を軽々と、またやすやすと言った母も諦めていたのかもしれない
僕は怠け者であり 不真面目であり お調子者であり
数学だけは得意であったが 勉強はそこまで好きでなく
雑学ばかりをため込み 日々遊びに暮らしていた
僕は彼女に恋していたのかもしれない
しかし、それにもまして僕は彼女に憧れていたのだ
僕は、到底なれそうにないものに憧れたのだ
こんな戯言を綴っているとき、一体彼女は何をしているだろう
きっと彼女は、その彼女の勤勉さと聡明さをもって
何かに打ち込んでいるに相違ないと思った