あの人の決意
あの人はここから去っていくといった
何故と僕等が聞くと、「簡単には言えない」と言った
穏やかな暮らし 保障と安定 安住の地
全てを捨てて新天地へと赴くあの人は
僕等を前にして少し涙ぐみながら
けれど決意を目に宿していた
そんな時でもおどける事を忘れないあの人は
最後まであの人だった
挑戦と進歩
学び、進むことを選び続けたあの人は
此処から去ってゆくことを決めたんだろう
少しづつ話すあの人の言葉は
少し止まりつつも、しっかりとしていた
また逢う事もあるでしょう、
ある日いきなりそんな事があるかもしれない
愛しているといった僕達の下を離れて旅立つあの人は、
けれど後悔なんて微塵も感じさせず旅立っていった
月並な言葉ばかりかもしれないけれど、
さようなら、ありがとう。
あの人の姿勢と決意、
僕は永遠に忘れないと、
そうあってほしいと自分自身に願った
―――さよならだけが人生だ/井伏鱒二氏より