ポエム
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叔母
大好きだった叔母と永らく会っていない
認知症になってもう私が分からない
娘さん2人の手を借り
やっとデイサービスに通っているらしい

我が家の台所には刺し子刺繍の
青い伝統模様の青海波(せいかいは)の
美しい台布巾がある
だいぶん汚れてしまったが捨てられない
叔母が作ってくれたものだ

叔母は溌剌とした好人物で
子供の頃には可愛がってもらい、大好きだった
革細工の先生をやっていて
バックやベルト、お財布など
壮麗な唐草文の作品などを創っては
私たち家族に贈ってくれた
小気味がよくて面白くて
人情があり素敵だった叔母だ

人が生きながらに人格や能力を失い
何事も忘れてしまう悲しみ
それを受容するのは
当人も家族も難しくて辛いだろう
いつかそうやって少しづつ滅びていく

認知症の親を廃墟のようだと
嘆いている人がいた
その残酷な悲しみよ

人生は時として切なく痛烈で
いたたまれないね
せめて優しさが欲しい
お地蔵さんに杓(ひしゃく)で
水を掛けて労わるように
情緒の波が慰めの温泉のように

私は叔母のくれた刺し子の台布巾を
ハイターに漬けたところだ


25/08/24 17:01更新 / 湖湖

■作者メッセージ
いつか誰しもが通る道ならば

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