ポエム
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琺瑯(ほうろう)のバット
我が家のキッチンの棚には古い琺瑯のバットがある

琺瑯の白が少し剥げていて
青い縁取りがある
半世紀近くも、もう使っていて
その頃のグラスやマグなども残っていないから愛おしい

使い始めた私が赤ちゃんの頃は
海際の湘南に住んでいた
だからバットは潮騒を孕んでいる

それから何度も引っ越しし、
長い時間を掛けて家族の群像が入れ替わり立ち替わり
時には事件があり、家族の愛憎があり、別れがあり、
そして、死があった

琺瑯のバットは若かった母がよくポテトサラダを作っていた
ハンバーグを作っていた
懸命に料理をする母を記憶している

古びたバットはいつか終わりが来、皆滅びることを暗示させる

生きるのは何か哀切だな
ありがとう、我が家のバットよ
古道具として妖怪になるかい?



25/02/28 13:15更新 / 湖湖

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