税務署に行き、やっと確定申告を済ませた
葉桜に変わりかけた大樹の街路が
はらはら、はらはら、と
風に花びらが群舞して夢うつつのなかを
しずしずと自転車で潜り抜けた

ああ、春のそぞろよ
生温かくて不思議な気持ちになる
なんて気持ちがいいの

レストランで安いステーキを食べたら
肉が硬くて靴底のようだった
予約していたいつもの雑誌を手に入れ
銀座コージーコーナーでナポレオンパイを買った
風の中自転車を飛ばし
ケーキが崩れないか心配しながら家路についた

途中、コツコツと歩く白づくめの若い女が居た
春らしい白いブーツ姿で歩くさまが美しくて羨ましくなった

音楽家の訃報が今日は届いた
世界は死もはらみ春めいてぞくぞくする

どこかで鳥籠の鳥の嘴が震えている
大空を失った無念、
羽が泣き、
ちいさな心臓はわななき
それはあの子

惜しむらく輪唱する世界よ

そんなあまたを内包して世界は発酵し
ふつふつと春来たる

あの街路の桜たちはさやさやと風に揺れながら花びら舞い

あなた、あなた、

と囁いている
それをわたしはそっと微笑み抱きとる心で気が付かないふりをした