ポエム
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怒りのりんご
現実逃避は歩くこと
むやみやたらと見知らぬ町を徘徊しては
自分をへとへとに疲れさせるのがいい
海の近くの町の寂れた市場の店先に
大きな赤い青森りんごが98円で売っている
一個だけ買い求めた
突然齧りたくなったと

ガキのころによくした
りんごをセーターで磨く
ピカピカになったりんごをば
丸囓りするとき
店先に椅子として置かれた
りんごの木箱に座り
おれは怒っていたか
泣いていたか
無性にケダモノの残虐さで
獲物に食らいつくように
おれのふる里の果実に
八つ当たりして
滴り落ちる果汁をば
袖で拭い

あいつは何も知らない
どうしておれが部屋を出てゆくのか
子供よりもたちが悪い
きっと正気に返ったら
いないおれを探すのだ

りんごを囓り
やり場のない怒りが鎮まったら
おれはまた疲れた足をば
酷使する

なにも考えまい
なにも考えまい

路頭の行者のように
念仏唱え
20/02/26 05:55更新 / シニヤ = シネー



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