ポエム
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君の名前を知りたい
 窓の外を見ているのは、私。あの木はどうしてずっとそこにあるのだろうか。今年も同じところに向かって、黄色く色づいた葉が落ちた。同じ結果を毎年、毎年繰り返す。そうやって年老いて、枯れていく。なんとシンプルで美しいのだろう。

木は木であることで、すでに完成しているのだ。例えば虫になったり、雲になったり、蜘蛛になったりする必要はない。期待もされない。ずっと気の向くままに、木のままでいい。

 人間である私とはそこが大きな違いだ。人間という動物にとって、日々同じであることは罪なのだ。「お前は何も変わらないな」は誉め言葉でもなんでもないのだ。変わらないやつへの皮肉と、変わった自分があることの優越感と。
どこかの有名な作家も言っている。「精神的に向上心のない者はばかだ」と。

大人になると体が大きくなっても誉められない。デブだのブスだのちょっとは痩せたらだの、いろいろと面倒でうるさい。子供のころは祖父母の家に帰ると、そのたびに「また大きくなったね」と感心されたものだ。体が大きくなることが誰かの喜びであり、私の喜びでもあった。
しかし、そんな時代はとうに過ぎ去ってしまった。「心臓が始まった時 嫌でも人は場所を取る」とはよく言ったものだ。場所を取ることはそれだけで罪なのだ。なるべくコンパクトにまとまることで、きちんとしている人という括りに分類されるようになっている、大人の世界は。

 さて、話がそれてしまったな。まあ誰に話しているわけではないのだけど。しいて言えば、私はあの窓の外の木に向かって話している。
ところで、あの木の名前は何というのだろうか。知らないで話しかけ続けるのは何か失礼な気もするので、図書館に行って図鑑で調べてみることにしました。それが今日の課題である。生きる意味である。そういうことにして、出不精の私は外に出る口実とする。
22/10/23 23:30更新 / おとまち



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