ポエム
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僕の左手
初めて詩を書いたのはいつのことか
気付けば息をするように書いていた
だから上手くもなっていない
息をするのだって未だに下手くそだ

ただそれが、初めての感覚だった事は覚えている
心が少しだけ、この身体からはみ出した気がして、
身体は少しだけ軽くなった
目に見えないものの、重さを感じた

一人になると、何かを書かずにいられなくなる
破ったノート、部屋の壁、広告の裏、左手の甲
それは部屋の中にあって、一人の時そばにいた物たちだ
寂しさを浴びせられた、被害者の面々だ

いつも見る夢がある
目が覚めて少しして気づく「ああまたか」と
つまりは、君とのこと
三階からカラスの羽を落としたくらいの、
短いのか長いのか分からない時間、
僕らは二人でいた

夢で見る左手は、だからいつも綺麗だ
寂しくないことも無かったが、
それを伝えるには左手の甲は、あまりに狭かったから、
この現象をきっと幻と呼ぶのだろう

心はいつも身体の周りにまとわりついている
表面から3cmだけ、ぶよぶよと浮かび、
夏の暑さも冬の寒さも、
自分だけで耐え忍んでいるような顔をしている
けれど彼がいなければ今頃死んでいた事だろう
皮肉なものだ

恋の詩なんて恥ずかしくて書けない
そう捉えるのは勝手だが、
こちらにはそのつもりは無い
無くても、そこに無いだけで、
その形に見えてしまうのは、よくある話だ

今朝見た夢の話を、
笑いながら聞いてくれる君がいないと、
僕の左手は汚れていく

「ほら見て、肘まで真っ黒だ」

それを聞いたのは、真っ黒なノートと、真っ黒な部屋の壁だけだった
19/07/16 00:44更新 / アンタレス



談話室



■作者メッセージ
恋の詩なんて恥ずかしくて書けません。
「その他」とは仲良くさせてもらっています。

18/08/10

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