ポエム
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とある難題について
夜通しで一冊の本を読み終えて、
その他愛もない感想を
誰かに伝えなければと躍起になるのは
決まって月曜日の朝だった。

ゴミをまとめて、
決められた場所に置きに行く事と同じくらい、
それは習慣になっていて、
だから同時に僕の一夜は、
顔もない人たちによって片付けられていく。

あの頃はいつもそうだった。
そして、その後も形を変えて、
文章化すれば代わり映えのしない毎日を、
こうして送っている。

僕は、茶色い本棚のある自分の部屋へ、
規則正しく帰ってくる、
季節性の病気みたいな存在だ。
そしてその流行は、
おおよそインフルエンザのそれと時期的な一致をみる。

ところで、科学者の研究室の棚にある、
整然と並べられた試薬や瓶の類を、
どこかで目にした事はあるだろうか。
あるいは、現実のものでなくとも構わない。

僕の本棚は、
二度と主人に顧みられないという点と、
日付と名前を揃えたコレクションだという二つの点で、
あれとよく似ていた。

いつからか中板を捨てられた箱の中には、
奥から規則正しく、
下からきっちりと、
日付順に手垢の束が収められている。

電車の車内広告は唄っていた。
「あなたの半生に題名をつけるとしたら?」
それを目にしたのは2週間も前の話だったが、
当然と言うべきか、もちろんと言うべきか、
最近の僕に対して、
その答えを与えてやることは出来そうになかった。

この毎日は何だろう、
問いかけずはいられなくなっている。

あの本棚を知らないやつが、
今も平然と僕の隣で笑っている。

それは何も不思議なことではないし、
むしろ一度でも見てしまったら、
もう二度と同じ笑みを僕に
向けてはくれないだろうことは想像に難くない。

加えて悔しいことに、
遠慮がち、控えめに言って大変遺憾だが、

僕は、その隣に座る彼女の事が、
どうしょうもなく好きだった。

けれど、現在話す僕の言葉が、
いかにその後の人生によって塗り固められ、
装飾され、合理化されたものであっても、
あの茶色い壁から滲み出て来る、
薄汚れた液体の成れの果てであることだけは、
おそらく変えようのない真実だと思う。

多くの人が、その日、
作り方さえ知らぬモノを口に運べるのは、
よくよく考えずとも奇妙なことのはずだ。

だからつまり、
一言で言えば、
要するに、あれだ、

「次に僕が、君に何を話したらいいか」
なんて問題は、難し過ぎて解けないんだ。
19/08/17 03:27更新 / アンタレス



談話室



■作者メッセージ
本当に、何も不思議なことはありません。

あの赤い着色料の作り方を見れば、
誰も''イチゴクリームメロンパン''なんて、
好んで食べようとは思わないでしょう。

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