ポエム
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星が落ちた
暮れかかった空から川へ星が落ちた
水色の夕方に手をかざしていたときだった
なかまをもたずに星がやってきた
川に墨を垂らすと星が一層輝いた
もう蛍なんていらなかった
もう蛍なんていらなかった
その星の孤独を尊ぶために手は伸ばさなかった
その晩は 星の欠けた夜空に見とれていた
水草は息を殺して揺れていた
もう寂しくなかった
星と目が合って私を許してくれた気がした
だから川で溺れはじめた
そこではじめて悲しみが溶けきった
川中じゃ涙は消えてしまうんだ
川を出るまで悲しいことは有り得ないんだ
だったら私は溺れ続けるしかないよ
私が幸福であり続けるには溺れるしかないよ
川中にいれば雨を凌ぐ必要だってないさ
飢えに泣く私は川の外にいる少女になって
私から切り離されてしまうんだ
でも川中にいると息が吸えない
死んでしまうか苦しみに負けて地に足を着けるか
私が人間でなかったらどんなによかったか
川の中で自由に溺れることができたら
私は凡人だから美しく川で死ぬこともできない
臆病だから溺れきることもできない
だから地上でまた飢えに泣く私になる
蛍がないと心が死んでしまうよ
蛍がないと暗闇の中で生きられないよ
さようなら、お星さん
私はもう川になんか行かないよ
ほかの大人たちと一緒にビル街へ行くさ
蛍を連れてひとりぼっちに行くさ
25/06/17 16:16更新 / 深紺



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